文学夜話第2回。安部公房「箱男」を読む。

 

 そういえばこのブログ・・・書評ブロガーとかいってるわりに、「書評」というやつをもう何ヶ月も書いていないような気がする・・・。何書いてるかつったら、欝になった、とか、アマゾンでなんかくれ、とかそんなことばっか言ってる。アクセス下がるのも当然だと思う。おまけに遅筆だし。これはやばい、と思った。とり戻さなければならない。書評ブロガーとしての本分を。
 そこで思い切って、今日からいろんな名作小説をレビューしようと思い立ったのである。「読みやすそうなやつ」を探し、これ!と思ったタイトルをもう勘で選び抜き、かたっぱしから語って、文学へのいざないができればブロガーとしてひと皮もふた皮もむけるだろう、と思ったのだ。
 というわけで第2回目は「箱男」なのです。なんでそれなのか、というと・・・いやとくに理由はないんだが・・・。目に入ったのがこれだっただけで。本屋に行くとやたら目に入るのだ。このタイトルが。箱男。何かをくすぐるタイトルである。設定もそうだ。段ボール箱に入ったおっさんが町を徘徊するって、かなりぼっち的というか、世捨て人ハートをガッチリつかんでくるものがある。何がどうなっても面白くなりそうな予感がするじゃないか。

 

箱男 (新潮文庫)

箱男 (新潮文庫)

 

 

 ちなみにボクと安部公房との縁はかなり薄い。
 砂の女をちょっと読んでるぐらいで、あとはRなんちゃらっていう短編集を買って、そこらへんにほってある、ぐらいで。そのわりに本棚には堂々と「安部公房!!」って並べてある。読んでることをアピールしたくなる作家であること以外、ボクと安部公房との接点はない。
 そこで晴れて本物の安部公房通としてデビューすべくこの本を手にとったわけなんだけど、いや、本当に参った。何が参ったって、ツライのだ・・・。感想言うのが。読むのもツラいし、感想言うのもツラい。どうしたらいんだろう。もうごめんなさいするしかないだろ。第一回目にこれ選んだの、失敗だ。しょっぱなから、もう最悪である。

 いや、春樹のねじまき島読んだときも、そうだったけど、こういう自分の思考能力を凌駕してくるものへの対し方としては、そのほとんどが「わかんねぇ」と逆切れして、なんとかその場をやりすごすことを常道としてきたが、こと安部公房にいたっては、なんかもうそんな小手先で逃げられない空気があるのである。わかんねぇやつは確実に「アホ」の烙印が押されること請け合いな雰囲気がすごく出てる。どうしよう・・・。アマゾンとか見るとみんなそれらしいコメントしてわかってるっぽいし。でもほんまにわかってんのかよ・・・。わしはもうな。凛と背筋伸ばして「わかんないです!」って。さっぱりだったぞ。ほんと清いぐらい。

 ・・・いやね。そうはいっても最初はひじょうにわかりやすいのよ・・・。

 冒頭でいきなりレクチャーしてくれるのだ。「それでは箱一式用意してくださーい」みたいな。箱男がいきなり。箱男ライフを。君もトライ、みたいな感じで。

 そして最終的には「ひとつの箱を使い込みたいときには「蛙張り」をおすすめする」とか言ってくる。おすすめされるのである。
 このように箱男生活のイロハが箱男の口から非常にわかりやすく、ご高説のたまわれ、そして「僕は箱男なんだけど、これからボクの話をしますね」といって、箱男の告白が始まるんである。

 どういう告白かというと、箱男が、フツーに路上でいつものように箱ライフにはげんでいると、
 突然、知らない女から「ねぇ、箱男さん、あなたの入ってるその箱、今度あたしに売ってくれない」ともちかけられたらしいのだ。しかも5万円で。びびる箱男
 「どえぇ、こんなボロ箱買ってどうすんねん・・・しかも五万て、大丈夫かこの女、ちょっと頭おかしい」と引きまくる箱男だが、しぶしぶその取引に応じるのである。

 しかし、女は約束した時間になっても現れない。
 
 「あーこれはやばい。完全に騙されたわ。たぶん女はどっかのヤンキーとグルで、こうやって誘い出して、ヤンキーにバットかなんかでしばかれるんだ。しばかれる展開なんだこれ」とさらにびびり、ガクガク震える箱男。しかしその予想はあわくもはずれ、もっと最悪なことに、ズドン!!って突然撃たれるわけである。空気銃で。ナゾの男に。「いてー・・・」となる箱男
 そんなタイミングにあの女がやってきて、「大丈夫? 痛そうね、箱男さん。 坂の上に病院があるわよ」といって、箱男に三千円を渡し、去っていくのである。
 「もうなんなん・・・」と思いながら、しぶしぶ病院にいく箱男

 するとさっきの空気銃で撃ってきた男と、三千円くれた女が、なぜか「医者」と「看護婦」という姿で待ち構えていたのだ。「おまえを待っていたぜ」みたいな感じで。そして箱男に麻酔をブチ込み、昏睡させ、「五万円で箱、絶対ちょーだいね」と念押しして、病院からほっぽりだすのである。
 もう開始早々、わけもわからず無茶苦茶される箱男。なんでこんな目にあわないかんの・・・としょぼくれる箱男
 それでしばらくすると女から手紙が届くのだ。「約束どおり、五万円をお支払いします」、と。「でも箱・・・そのあなたの箱・・・そんな汚いボロ箱などいりません、欲しいとも思いません。お願いですからどこかに(海にでも)捨ててください」という手紙をもらい、さらに混乱する箱男。読者も混乱する。「なんなんだよあの女、何がしたいんだ・・・もう意味わかんないよ。そもそもなんでオイラ空気銃で撃たれたんだよ・・・もう怖いよ・・・」とボヤきながら、釈然としない箱男

 もらった五万円を返すため真相を突き止めようと、ふたたび病院にいくのだが・・・

 さぁ、ここから次の展開がもう安部ちゃんワールド全快というか、すがすがしいほど、「???」なんである。

 病院についた箱男。すると診察室でさっきの女ナースがなぜ裸でいるのである。
 「ど、ど、ど、どわぁああああ、ナースの裸だああああ!」と興奮する箱男だったが、よく見ると、もうひとり、その裸を見つめる視線が。誰や、と思ってよく見てみると、箱男なんである。
 もうひとりの箱男がそのナースを見つめていたのだ。ライバル登場である。しかも向こうは診察室のなかにいて、女と知り合いで、なにやら女とイチャイチャしてる。完全に負けている。くそお・・・と嫉妬で燃えたぎる箱男
 「おい、こら、やめろてめら、イチャイチャしてんじゃねー!五万円返しにきたぞこらあ!!!」と思い切って威勢よく割り込むと、「あら箱男さんですか」「まぁまぁ落ち着いて」「そんなにいうなら三人で生活しようじゃないですか」とライバルの箱男から、なぜかすごくいい条件を提示され、最初はキレようとしていた箱男も「お、おう・・・え、ええの? いいの? いんですか? ほんとにいいんですか・・・?」みたいな感じになる。いいですよ、とあっさり答える箱男B.
 (やったぁ・・・これで毎日ナースの裸がおがめるんだぁ・・・一人、ちょっと目障りな奴おるけど、まぁ無視したら大ジョブだ!)と内心ガッツポーズを決める箱男なのであった。
 
 しかし後半になって、その箱男Bが実は空気銃でうっていたあの医者だったことが判明。
 「おれを撃ってきたやつじゃねーかこいつっ・・・!」とやっぱり無視できない存在になり、最終的にそいつと殴り合いのけんかになり、ウラあぁぁ!!と箱男Bが空気銃でバンバンうってきて、いっぽう箱男はなぜか「ぬいぐるみ」で対抗し、しかもけっこうこれが向こうにダメージを与えたらしく、ぬいぐるみで箱男Bをポカポカたこ殴りしてたら、「ぐはぁ・・・」とかいって箱男Bが悲鳴を上げ、とどめの一撃や、とぬいぐるみを振り上げると、―――箱の上から頭を叩きかけて、ためらった。箱を傷つけたくなかったのだ(P129)とためらう箱男。「箱」にだけは優しいのであった。しかし箱男Bはそのままシーン・・・とまったく動かなくなり、よっしゃあ!と思う箱男だったのだが・・・

 さぁこっからがもう「???」の地獄絵巻というか、怒涛のごとく疑問符のプールに放り込まれるんだぞ。もう泣きそう。がんばって説明すると・・・倒した箱男Bの医者は、そもそも医者ではなくて、戦争中、軍医だった男の右腕として軍事病院でいっしょに働いてた助手で、その軍医がヤク中になって、かわりに助手だったそいつが「軍医」と名乗るようになってずるずると医者になって、今度はそのヤク中の軍医が「わしを殺してくれ」言うんで、軍医を殺害。箱男の「箱」にいれて海に放り込み、その経過を供述してるシーンへと変わり、そんでもってさらに箱男の手記も誰が書いてるのかわからない、もしかしたら箱男Bかもしれない、メタでどうしようもない展開もにおわせ、いろいろあって最終的に・・・え-・・・ごめん、覚えてないわ。とにかくそんな感じ。

 まぁわかんないところは割愛するとして、ボクが本書で面白いなと思った部分は、やっぱり箱男のディティールですね。箱男ライフがいかに生活感のあるものとして描かれているかっていう描写のところが、唯一、おもろかったなってとこで。
 たとえば、箱男ライフ生活を始めるにあたって必要なもの!!!みたいな。そういうのが中盤、紹介されるんですけど、おいおい、それいるか・・・?みたいな。「テーブル」とかさ・・・いやテーブルはいいけど、それが必要な理由が「トランプ占い」したいからって・・・。なんか可愛いOLみたいだな、とか。ほかにもラジオとか湯のみとか、魔法瓶とか、いろいろけっこういるんだな、って思って。これはきっと役に立つ!って箱男があげるのが「半田ゴテ」とかさ・・・なにを接合させるんだよ・・・とか思って。まぁここまではまだ許容範囲で許せるけど、
 もう一番、これはひどいなと思ったのが、「これは・・・いつ必要となるとも限らないんだ・・・」ってあげるのが、コンサンス英和辞典(P90)とか、もう絶対いらんやろそれ・・・。箱に入っときながら、なにをちょっと語学を身につけようとしとんなコイツ・・・って。「いつ必要となるとも限らない」って、いつ、どういうタイミングで必要とするんやそれを・・・。

 しかもこんだけいろんなもん揃えときながら、「ズボンさえあれば・・・」(p119)みたいな。ズボンはいてないのである。コンサンス英和辞典より先にそっちだろ、どう考えても。

 まぁこういった生活必需品から垣間見れる箱男のちょっとしたこだわりというか、プライドの高さ?、みたいなのは見ていて愛着を誘うのである。女から五万円もらったときも「彼女は箱の意味について軽く考えすぎている」(・ω´・´)ゝキリ みたいなこと言ってたし、冒頭でホームレスと箱男は違うぞ、とも言ってて、箱男に「箱に入る」のはひとつのキャリア選択だ、という箱男の見栄というか、プライドがちょっとだけ垣間見えてかわいかったりもする。

 しかし「箱男」、考えれば考えるほど、御し難い・・・。
 いやあ・・・こんな御し難い小説、読んだことないわ・・・。
 みんなもお暇なら、ぜひ挑戦してみてはどうか。