文学夜話第5夜 「キャッチャー・イン・ザ・ライ」村上春樹訳。

 

 大人ってなんだろう。そんなことを、いまマジメに考えている。

 引きこもりずっとお布団の中でヌクヌクしてる自分は、まず「大人」ではないのは確信が持てるが。いつまで経っても、「大人」になれない。そういう自分に嫌気が差した時、書店でサリンジャーという人の本を読んだ。「キャッチャーインザライ」。タイトルだけが先行して、内容がヴェールに包まれている、この小説。いったいどんな小説なんだろう。とずっと気になっていたんだ。若いときに、なんとなく読んでおかなければいけない本があるが、この小説もその一つ。タイトルに引き寄せられ、気づいたときには、読み終わっていたが、こんなに「街中をうろちょろしてるだけ」の話だとは思わなかったのでびっくりした。

 どんな話かというと。16歳の少年がグチグチ言いながらその辺をタムロする話。「絶賛されてるけど、なにがいいわけ?」「何が言いたいの?」的な意見に代表させるように「わけわけんね」「池沼がグチグチしゃべってるだけじゃねーか」と困惑する評価が多いのもうなずける名作。
 そのぐらい、とにかく色んなものをディスりまくるホールデンくん。あれもクソ、これもインチキ。いろんなものに「ペケ」をつけまくり、学校も退学する。しまいには家を飛び出して、町を徘徊するプー太郎に。ホテルをウロついて女の子と遊んでいたり、とにかく町を徘徊する。特に前半パートの白眉。ホールデンの疑心暗鬼は特に見所である。ちょっと笑うなあ。好きな女の子が友達とデートしていたことにショックを受けたホールデンが、ずーっとその子が「やってるか、やってないのか」気になって仕方ないの下り。やってんの?、やってんの? やってないの?マジでやってない?いや、やってる? いや、ホント、やってない?、やってないよね。やってないよ。・・・いや、やってる? この下りが前半しつこすぎて笑えた。なんか、拗ねているんだけど、どこか寂しがり屋というか、キョロ充っぽいんだよね。最後に「僕は森の中で木こりになります」とか言い出してホールデンくん「森の中で、美しい聾唖の女の子と結婚するよ」ととうとう非モテの妄想まで炸裂させ、彼は、どこへ向かおうとしてるのか。いったいこの小説は何が描きたいのか。
 もう結論を言おう。私なりに言わせてもらえれば、この小説は、「大人ってなんだろう」という問いにサリンジャーが回答した小説である。大人とは何か、にサリンジャーが回答している小説なんですね。
 まあー、妹がいるんですよ、ホールデンくんには。で、その妹が好きでしょうがないわけです。だから森に行く前に「お別れ言わなきゃ」妹にお別れを言いに会いにいくんですね。そしたら妹が暗い表情してるわけ。どうしたって聞くと、「あたしも家出したい」とか言ってくるんです。そしたらホールデン君「えーお前もかよ」ってテンパりはじめて、妹泣き出して、もう手に負えなくなるんですね。それでもう「あーもうわかった、俺も家に帰るから、もう家出したいとか言うなよ」ってしぶしぶ妹連れて家に帰るという小説なんです。これは何が言いたかというと、サリンジャーからの「大人」に対する回答である。
 大人になるということは「自分がいないと生きていられない他者」を見つける旅だ。
 「キャッチャーインザライ」は、ホールデンが「孤高ぼっち」から、誰かを支える「庇護者」(キャッチャー)に変わった瞬間を通して伝えられるサリンジャーの回答を示した小説である。だから悲しかった。ホールデンが「あっち側」に行ってしまった寂しさ。そういう読後感だけが残った。これを読んで、僕に出来ることは何か。とりあえず履歴書を書いて、あしたバイトの面接に行こう。と思いました。

 

キャッチャー・イン・ザ・ライ (ペーパーバック・エディション)

キャッチャー・イン・ザ・ライ (ペーパーバック・エディション)