万引き家族が想像以上に絶望的な映画だった件。

 

  カンヌ国際映画祭で「万引き家族」が最高賞を獲ったので先日見た。受賞した後で「日本の恥」「反日」とか言われ散々な目に合った本作だが、逆に見たくなった私は、やっと休日に映画館で見る事が出来た。
 で、感想を言おうと思うんだが。万引き家族、最初見た感想を言うと実は、少し感想に困っている所がある。というのも、けっこう難しい映画だったからだ。
 まー最初にいいところを言っていくとね。オープニングから凄いなと思ったのは。やっぱ、そうめん食うシーンとかな。なんかそうめん食うときにさ、横にトイレットペーパーとかおいてあるやん。ティッシュペーパーじゃなくて、あえてトイレットペーパーってとこが、すっげー貧乏くさいねん。 あと安藤サクラの「貧乏な家に居そうなマイルドヤンキー感」が凄すぎて映画のフィクション性をはるかに超えてましたね。安藤サクラに限らず、役者人はみんなすごくてね、樹木希林なんか怪演というレベルを超えて、もう妖怪みたいになってましたね。人間じゃない何かになっていた。
 まぁ、ここら辺は今までの是枝作品としては普通に及第点は取れる、が、問題は作品の後半や。オレはな、この作品てっきり「万引き家族に引き入れられた少女が万引き家族との出会いを通じて成長するみたいなゆるいホームドラマ」を予想してたわけ。うん。もう久々に泣く準備もしてきてん。ティッシュ持って。
 ところが見に行ったら、これ複雑な映画やねん。例えば、樹木希林おるやん。あれリリーフランキーのお母さんじゃないねん。みんな血がつながってない家族って設定なんやな。樹木希林演じるおばあちゃんは、リリーフランキー演じるお父さんのパチンコ仲間やねんてw
 で、安藤サクラ演じるお母さんは、もともと飲食店のホステスをやっていて、そこで知り合った「客」がリリーフランキーで、安藤サクラの旦那が激しいDv男で、ボコボコに安藤サクラを殴るので、それを止めに入ったリリーフランキーがサクラの旦那を刺殺してもうて、それでどこにも行く当てがなくなった二人は樹木希林の家に夫婦としてころがりこんだ。っていうが裏設定やねんて。
 で、あの安藤サクラ演じるお母さんは実は母親から虐待を受けていた人で、そのトラウマが変に歪んでもうて、他人の母親から「子供を奪う」ことで、(自分の母親)に復讐を果たす原動力になっている。というのがあの母親の行動原理やねんて。で、ここも映画ではまったく描かれてないねん。
 だから安藤サクラが、詰問されて泣くシーンも、あれも実は虐待を受けた母親が本当の母親になる努力に失敗して、ゆりも取り上げられ、もう二度と母親になれないことを悟った涙やねんて。こういう部分もな、まったくわからへんねん。映画見ただけだと。ここらへんの登場人物の裏設定は小説版「万引き家族」にすべて書かれているので、コレ必読です。
 だからね。見たあと「泣けたー」とかいう映画ではなくて、ものすごい複雑な裏設定がある映画やってん。
 まぁそこらへんは作家性の部分やからええんやけど。問題は、ラストや。俺はな。これ見たとき、口あんぐりなってもうたで。コレどうしたらええの、みたいな。
 一言でいうと、万引き家族。後味悪すぎやねん。
 いろんな意見はあるだろうけど、オレは、このラスト、なんか嫌やねん。
 いや、普通にゆりの虐待をを警察に報告しないのもおかしいと思うし、ラストに万引き家族が少女を救ってやる的な展開でよかったと思うんやけど。なんか作為的なものを感じて、このラストは、ちょっと残念でしたね。どう受け止めいいのか、よくわかりませんでした。困惑だけが残った。
 で、面白いのは、樹木希林が死んでも、家族を装いながら万引き家族もけっこう薄情で、利害・損得を優先させる共同体として描かれる。一方で子供を虐待する家族が存在する。さて「どちらが家族としての成立要件を満たしているのか」と観客に問うてくる、というのがこの映画のテーマなのだが、是枝さんは子供を虐待してベランダに追い出す家族よりも、子供にちゃんと衣食住を与えるほうが家族なんだ、と描く。そういうことを、なんとなく端々に感じる映画でした。
 でもかなり複雑な感情を呼び起こす映画なので、気になった人は、映画館でじかに確かめてみることををオススメする。

 

 

 

万引き家族【映画小説化作品】

万引き家族【映画小説化作品】