アルバイトの「小野寺さん」(同僚)の経歴が凄かった。

   27歳の頃から、コンビニで働いて今年で2年になるのだが、最近、仕事がとても退屈だ。

 朝起きて、身支度を済ませ、自転車で職場に行って、テキトーに弁当を出して、何時間も、仕事に忙殺される日々に段々、感情が劣化してくる感覚を覚え、最近、抜け出せないほど鬱になり、元気を失なっていた。そんなバイト先で生きる意欲や労働意欲を見出せない日々を送ってるんだけど先日そんなバイト先で唯一面白いことがあったのでその話をブログに書いてみようと思う。

 あるとき店長から、新人の人が入ってくるというのでレジ係の「小野寺さん」を紹介されたのだ。レジに慣れてない人だと言うので教えてあげてと言われ、私も初めて先輩面みたいな感じで小野寺さんを待っていたのだが、その日やってきた小野寺さんにビックリしてしまったのである。

その日、朝の出勤を終えて、仕事をしていたら小野寺さんがやってきた。で、小野寺さんをバッと見たら、おじいちゃんなのだ。もう即座に「年金」とか「介護」を連想するレベルのおじいちゃん。

しかし小野寺さんは私を見るや「おはようございます」と声もはきはきして、とても、礼儀正しい。

実を言うと、私のバイト先には、高齢者の人も多く働いている、なので、すぐ冷静さを取り戻し、年金だけじゃ苦しいから働く人もいるんだなあ、ぐらいの感覚で、私はその日小野寺さんと一緒に仕事を共にすることにしたのである。小野寺さんはとても腰が低い人で、私が、何を指示しても「はい」「わかりました」素直に声を上げて聞いてくれる。とても品のあるお爺さんだった。

 が、この後で、予想外の事が起きた。なんとなく世間話をする空気になり、小野寺さんが「大学生?」と聞いてきたので、私が、いやあ辞めたんですよ、と答えると、小野寺さんが、

 「・・・実は私、今、大学生なんです」と言ったのだ。。一瞬えっと思った。小野寺さんは、年を聞くと70歳を既に超えているらしい。どう見ても後期高齢者である。

 一瞬、目が点になった。

 だが、すぐに、思い直した。そう驚くべきことでもないか。欽ちゃんでも大学に通っている時代だ。若い頃、家が貧しくて中々大学に行けず、年を取ってから大学に入る人だっているんだろうなあ、と私は思った。それで小野寺さんに「若い頃は行けなかったんですか」と聞いたのだ。ところが小野寺さんは「いや、大学に通うのは、これで四回目なんですよ」と言うのである。4,4回目!??ど、どういうことだ。ますます訳が分からないw

 どうも聞くと、小野寺さんは10代の頃は同志社大学に行っていたらしい、が、大学を一念発起して辞め、整体師の資格をマスター。で、整体師として開業したらしいのだが、ところが法律の改正で、整体師が儲けづらい世の中になったらしく、やむなく、整体師を廃業、そして今度は、何故か沖縄大学に行ったと言う。沖縄大学に行った理由は、「なんとなく、あったかそうだから」という理由だったと言う。そして沖縄大学に行って英語の講師をしていたのだが、何故か小野寺さんは英語がまったく分からないのだと言う。もう意味が分からない。それから沖縄大学に通ったあと、家庭教師などをしていたが、突然、法律のことを勉強したくなり、私の近くにある法律の大学に通うようになったのだと言う。そして気づいたときには70歳になっていたと言う。

 「何で法律なんですか」と聞くと、小野寺さんは「自己破産を受けるときに役所とやり合うことがある、そのときに法律の知識があった方が便利なので、法律を学ぶためにここに来たんです」と言う。分かるだろうか。この理由。自己破産したときに役所をやり合うためにわざわざ大学にまで通うのだろうか?と思ったのだが、いやあ、とにかく凄すぎる人生だ。

 70歳。新しいことに挑戦しようと言う気概で小野寺さんの目は、輝いていた。

 私は驚いた。70歳と言えば一日中こたつの中に入ってのんびり、みたいなのが普通だと思っていたから小野寺さんの人生観に私の固定観念が破壊されてしまったのである。

 「親は何も言ったりしないんですか」と聞くと、小野寺さんは「いやあ。うちは妹に子供がいるんで大丈夫なんですよ」と笑いながら言う。小野寺さんの両親は、勉強しろとうるさい両親だったらしく、小野寺さんはそれを逆手にとって、「勉強します」と言って、世間的な圧力をかわしてきたらしい。

 しかし小野寺さんのように、何度でも大学に行けたり、何度でも新しいことに挑戦する人生は自分の人生の理想像じゃないかと思ったのだ。決まりきった人生に囚われず、何度でも学び直しができる社会になってほしい。と日頃から思っているが、小野寺さんはその最良のモデルケースかもしれない。と思ったのである

しかも、腹立つことに、この小野寺さん。俺より、バイト先になじめてるのだ。俺バイト先でぜんぜん馴染めてないけど、小野寺さんの方がバイト先の人と軽口を交わし合っていたりするのだ。
まさか29にもなって、70歳のおじいちゃんにコミュニケーション能力で負けるとは思わなかった。小野寺さん凄いわ。