友達に彼女ができた時の、あの寂寥感・・・

 友達に彼女ができたらしい。嬉々としてそれを告げられたとき、血が凍った。
 リア顔を見せようとカバンからケータイを取り出し始め、ボクの眼前にかざし始めたとき
 「頼むからブスであってくれ」 そう祈っている自分がいた。
 結果的に言うと、その祈りはすごいダイナミックにへし折られた。
 可愛いかったのだ。なんかもう、この世の終わりぐらいの可愛さだった。しかもちょっとタイプだった。
 あまりに酷い・・・。こんな残酷で、酷い、理不尽な話ってあるのかなってぐらい。
 いや、「彼女ができた」こともさることながら、なにより哀しいのは「彼女ができた」ことで人間が本来持ってるはずの「飢え」みたいなもんがなくなったんじゃないか、と感じたからだ。
 やつの顔は、ホントに憎々しいほどツルっとしていた。昔は、あんなに将来の不安で押しつぶされそうな表情をしながら、いつも行き先をボウフラみたいに模索してるような感じだったのに。いまは、もう、カラッと、なんかもう血管の末端まで「happy」が行き届いているような感じだった。あーあ・・・って思った。いや、「彼女ができた」ってことに「あーあ」っていうのもそうだが、そこには何か、もっと大きな、かけがいのないモノを失ったことにたいする「あーあ」でもあるのだった。
 何かひとつのものを共有していたはずなのに、それがなくなった感じ。
 
 この何かを説明するのは難しいが。例えて言うと、長年連れ添った仲のいい友達がいて、そいつとはよく気があって、高校を卒業してもずーっと会ってて、まぁお互いずーっと彼女(もしくは彼氏いなくて)いっつも近所のサイゼリアかジョイフルとか、すごいミーハーなファミレスでたむっててさ。どこどこの誰それはブラック企業で働いてる、とか、あいつは今ねずみ講にひっかかってる、とか、そんな「地元のツレ」の話をグダグダ続けながら、今の世の中で「良し」とされてるあらゆるもんに悪態ついて、そんでたまに「オレは将来的にこうなってたい」みたいなありもしない未来像を語っちゃってバカだなーとか言い合ってる「あの感じ」。そんで深夜の閉店までいるあの感じ。「あの感じ」をボクは大切にしてきたいと思ってたし、これからもあの感じが続くんだ、続けばいいなぁとは思ってたんだ。そりゃあせってたよ。早くどうにかならないとっていう焦りはあったけど。でもやっぱり「あの感じ」を引きずった空間って特殊で「ない」ことを通じて自分と似たもの同士が集まってくるというか、「ない」ということを同じ属性にして寄り合い所帯と化していたところはあったからさ。だからこれがいきなり「ある」に変わった瞬間、え・・・あれ、なにこれ。なんか違う・・・あれ・・・接しにくい・・・なにこれ・・・え・・・って。

 「お前はホントいつ彼女ができるんだよ」とか「お前が言うなやー」っていう乳繰り合いみたいなのはあったけど、これがいざ片方だけ出来てみると、いきなり「あーあ」という、一言で言うと寂寥感が襲ってきて。嫉妬もそりゃあるけど、寂寥感もでかいわけよ。もう、あの頃のあいつじゃないんだっていう。
 サイゼリアでだべってた時のあの感じってのは結局、モラトリアム溶液の湯加減の良さ、ってのもあったんだろうと思う。「オレはビックになるぞ」って言い合ってても、誰からも咎められないあの感じ。だって向こうも同じレベルだからさ。だから向こうが「オレ、将来どうしようか。自分が何をしたいのか本当にわからないんだ・・・」とか言って、悶々と悩んでたりするのを見ると、その姿が本当に愛おしく見えたし、「こんなんしたらどう?」「あんなんも向いてるよ」とかいろいろアドバイスしたりして、いつまでも喋っていたよね。

 いや、正直言うとここには「自分は見つけてるけどね」っていう、すごい卑しいものがあったんだと思う。ブログを書いて他人の評価を(今んところは)もらえてるし、だから同じレベルつっても実はこっちが「上」になってることが快感になっていたんだと思うんだ。ところが「彼女できた」っていうまったく別の「巣立ち方」を提示されて、こう自分の立場がグラッと揺らがされたというか、そんでもって結構カラッとして幸せそうだから。あ、これいかんと、もう、あの頃のあいつじゃない。将来どうしようか、とか言ってたあいつはもういない。これはまずい、と。だから「お前はウェブで独り立ちするぞ」って言ってたよな。あれはどうなったんだ。彼女ができたら、はたしてそんな野望が果たせるかな? 彼女と過ごす時間なんて人間の営みの中で最も面白くない時間なんだぞ。そんな時間に気をとられていいのかな? 彼女が出来たことでやりたいことへの「飢え」がなくなるんじゃないの。ってとにかくずーっとそういう感じで、「やりたいことをオレはできてるけど、君はどうかな」みたいな感じで説教して、なんとか向こうをオンリーワン市場のほうに引きずり込もうとして(この市場のなかでは説教できる位置に立てるから) 
 「いやオレは両立する!がんばるよ!」みたいなことを向こうは言うんだけど、いや・・・両立されたらそれはそれで困る、みたいな・・・。彼女おって、オンリーワンでも勝たれたらこっちの立つ瀬ないで・・・みたいな。だからホントに必死だった。いあ、そんなんできっこない!100パー無理!!!とか断定口調で力づくで切り捨ててた。

 いやでもやっぱり、グダグダ言ったけど、いろんな感情の底にあるのは、ただの怒りである。
 現実でないから、ネットを介して。みたいなさ。そういうのを思ってたわけだけど、まったく一向にモテる気配ゼロで、誰が見てるのかも定かではないブログを書き続けたんだし。なんかひとつご褒美というか、この伸びしろのないブロガーにちょっとぐらい、そういう色恋沙汰みたいなのあってもいんじゃないかなって思うんだけど、もう、ほんっとに腹たっくるぐらい総スカンしてくるんだよね。そんで、オンリーワンのほうで成功してんのかつったらこれも中の下だし。ほんと、お願い。モテさせてえええええええええええええええええええええええええええええええええ。